そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
 私、絶対いま不細工な顔になってる。

 そう思って慌ててうつむいて、ドアに手をかけたままこめかみを押さえたら、

花々里(かがり)、今朝から時折眉をしかめているけど……頭が痛いんじゃないかね?」

 って頼綱(よりつな)が聞いてきた。

 一旦は車外に出た寛道(ひろみち)が、それを聞くなり不安そうな顔で車に張り付いたけれど。

「大……丈夫、だよ」

 ――痛いけど我慢できないほどじゃないから。

 そう心の中でそっと付け加えながら、「行ってきます」と頼綱に告げる。

 そのままドアを開けようとしたら、頼綱が小さく舌打ちする声がして。

 それと同時に集中ドアロックがかけられた。


「……頼、綱?」

 突如開けられなくなった扉に戸惑いながら、ミラー越しに頼綱を非難がましい目で見つめたら、

「明らかに具合いが悪そうなフィアンセを看過することなんて、()には出来ないんだけどね?」

 って怖い顔をされた。


 そんな私たちの様子に、寛道が車外から窓ガラスをドンドン叩いてきたけれど、頼綱(よりつな)は「花々里(かがり)の調子が(かんば)しくない。今日はこのまま連れて帰るから」とだけ言って、車を発進させてしまった。

 閉まりつつある運転席パワーウインドウの隙間から、寛道の「花々里!」って声が聞こえて来たけれど、私は再度襲ってきた痛みに、小さく吐息を落とすことしかできなくて。

 ――寛道、ごめん。小町(こまち)ちゃんに今日もお休みになりそうって伝えて。

 言いたい言葉がひとつも(つむ)げないままに、大学がどんどん遠ざかって行った。
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