そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
「――あのね、頼綱(よりつな)。さっき……」

 寛道(ひろみち)と話している時に、思わずポロリと吐露してしまった告白を、恐らく頼綱はしっかり聞いていたはずだ。

 だけど……あれは頼綱に向けて発したものではなかったから……ちゃんと彼の方を見て伝え直したいって思って。

 頼綱の手を胸前に持ってきてギュッと両手で握るようにして彼を見上げたら、「さっき?」と繰り返された。


寛道(ひろみち)に……貴方の気持ちには応えられないって告げた時――。多分頼綱もその時に聞いちゃったと思うけど……でも……あれは頼綱に言った言葉じゃないから。だから……あの、今度はちゃ、んと……その……()()()伝えたい……です」

 そこまで言っただけで、恥ずかしくて頬が熱くなったのを感じる。

 そのことに私、ますます緊張して。


 頼綱の手に触れている指先が、血の気を失ったように冷たくなっていく。


「俺もそれ、改めて聞きたいって思ってたよ。けどね――」

 頼綱が真剣に私を見つめ返してくるから、目眩(めまい)がしそうなくらいに心臓が早鐘(はやがね)を打った。

 薬、早く効かないかな。
 あまりドキドキしたら、それに呼応するみたいに頭痛がしてしんどいんだもの。


「それを告げるのは、本調子になってからにしてもらえないかな?」

 もしかして私、眉間に皺が寄ってた……?
 そこにやんわりと口付けを落としながら、頼綱が言う。


「その表情じゃ、せっかくの花々里(かがり)の可愛さが半減してしまって惜しいじゃないか」


 サラリと恥ずかしいことを言われて、私は真っ赤になってうつむいた。
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