そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
 母親のことを薄情な(ひと)だと思ったのと同時に、じゃあ自分が幼い花々里(わたし)にしている興味本位で自分勝手な行為はどうなんだろう?と考えるようになってしまったらしい。


 最初は、幼くして父親を亡くした幼な子への言いようのない同情から。
 次は子犬のように自分に懐く小さな女の子への純粋な好奇心から。


「俺はね、きっと自分の中の満たされない思いを、キミに向けることである程度バランスを取っていたんだ」


 頼綱(よりつな)の母親は、彼を(かえり)みず、外に愛情を求めてしまったけれど、自分の目の前にいるこの女の子は、ただ直向(ひたむ)きに自分(が持ってくるお菓子)を待っていてくれる。


 それが、頼綱にとって救いであると同時に、重い(かせ)になっていったらしい。


「正直、俺の事情にキミを巻き込んではいけないって思ったんだ」


 結局母親はそれっきり御神本(みきもと)家には帰って来なかったし、父親も頼綱(よりつな)のことを八千代さんに任せて一層家に寄り付かなくなった。


「父親がね、病院の近くにマンションを買ったのもちょうどその頃だよ」

 一人息子の頼綱(よりつな)に、この広い家と八千代さんご夫妻を残して、頼綱のお父様も屋敷(ここ)を出て行ってしまったらしい。
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