そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
 無論、八千代さんさえよければ、俺は花々里(かがり)が優遇されることに何ら異存はなかったので小さくうなずいたんだが、その時の「さすがです、頼綱(よりつな)坊っちゃま」という口の動きを、俺は見逃さなかった。

 いや、八千代さん、俺の評価、おかしいからね?と思いつつ。


 別に子供の頃からそんなに食べ物に執着していた覚えはないのだが、俺が花々里に自分の取り分を分け与えるたび、八千代さんが嬉しそうに瞳を細めるのを、俺は戸惑いを覚えながらいつも見つめている。

 八千代さんにとって、俺は一体どんな存在なんだろう?


 子供の頃から忙しい両親に変わって俺を育ててくれたのは彼女だったけれど、大人になって、父親が病院近くにマンションを買って出て行ってからは、その距離感がグッと縮まった気がして。

 下手すると使用人と雇用主というよりも、容赦なく母親目線なんじゃないかと感じるときがある。


 そんな八千代さんが、俺が子供の頃から気にかけていた花々里(女の子)を妻に(めと)ることを、誰よりも望んでいることを、俺は知っている。

 もしかすると、俺以上に花々里がここに住むことになったのを喜んでいるのは、八千代さんかもしれない。
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