そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
「私、ここに住むなんて一言も言ってないし、そもそもそんな話、聞いてません」

 往生際悪く言い募ったら、「うん、言ったら嫌がると思って言わなかったからね」って……確信犯ですかっ。

「嫌がると思ってたなら……」

 御神本(みきもと)さんの顔を睨むように見上げたら、「お母さんからのたっての希望だったんだよ」って……それ、本当ですか?

「嘘……」

 思わず批難がましくつぶやいたら、「嘘じゃないよ? 可愛い娘がひとりでいて、食うにも困って住むところも奪われそうだって……お母さんが知らないとでも思っていたの?」って静かに見つめ返された。

 その瞳には偽りがない気がして、グッと言葉に詰まる。

 私がここにいるだけでお母さんが安心できるなら……そうするのはある種の親孝行なのかも知れない。

 でも――。

「分かりました。じゃあ……観念してしばらくの間お世話になろうと思います」

 言って、「よろしくお願いします」と丁寧にお辞儀したら「じゃあ」って嬉しそうに抱きしめられそうになった。

 私は慌ててその腕をかわすと、数歩距離をあけて御神本(みきもと)さんを真正面からはたと見据える。

 ここに住むとしたらこれしかない!
 さっきから引っかかっていたことも恐らく解決できるし、一石二鳥。
 きっとそれが最善策なのだと確信した。
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