政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
「譲るもなにも。壱都さんは私のものではないですから……」

海外支店にいた頃、たびたび、紗耶香さんと会っていたのを知っている。
沙耶香さんが私に自慢していた。
一緒にカフェに行ったとか、道に迷って困っていたのを迎えにきてくれたとか―――本当かどうかは知らないけど、壱都さんに聞けず、ずっとモヤモヤしていた。

「沙耶香さんなら、壱都さんにお似合いだと思います。井垣の娘として、きちんと教育を受けていますし……」

「嫌味か」

「嫌味なんかじゃありません。壱都さんは井垣グループの社長になるのが目的でしょう?社長になるまでは一緒にいます。私が必要なのはそこまでじゃないんですか?」

そう言ったのが悪かったのか、壱都さんは目を細めて腕を掴んだ。

「言いたいことはそれだけ?」

「い…痛っ!」

ぎりっと腕をきつく握られて、その痛みに気をとられている隙にソファーに体を押し倒されていた。
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