政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
「まあいい。そんなお前だから、朱加里を任せたい。この井垣のすべてをあの孫娘に継がせるつもりだ」

さすがの俺も驚いた。

「あの普通の子が跡を継ぐんですか。耐えられますか」

「莫大な財産を手にするわけだ。どうしていいかきっとわからないだろう」

「そうでしょうね。台所仕事をしているだけのようですし」

エプロンをし、飾り気のない短い爪をしていた。
いつも水仕事をしている手はこの家のもう一人の孫娘である紗耶香さんとはまったく違っていた。

「失礼しまーす」

紗耶香さんがコーヒーとマフィンを持ってきて、テーブルに置いた。

「このお菓子、私が壱都さんのために用意したんです。後で感想を聞かせてくださいね」

「わかったよ」

井垣会長は冷ややかに紗耶香さんを見ていた。

「さっさと出て行け」

「はぁい」

甘ったるい声で返事をし、紗耶香さんは俺に手を振りながら、部屋から出て行った。

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