マエノスベテ
39
いい耳、か。
後に続きながら彼女の言葉の意味を考えてみる。
ぬいぐるみがしゃべっているとは周りは思ってない……?
「この場合、ぼくの方がおかしいのか?」
ともかく、彼女も《そういう》人らしかった。
ウシさんが突然怒り出した状況について、彼女は特に何か言われたりしなかったらしい。
「あっちが、なんとなくむしろ私を苦手としていたかな、距離がつかめないというか」
ナエさんが話すあいだ、
彼女――相談者は、改めてお茶をいれた。
ぼくはさすがに二つ目のケーキは辞退したが、彼、の方は食欲があるらしくナエさんと並んでごちそうになっていた。
これでは、なんだかもてなされに来ただけみたいだ。
「だから、私は、その……」
彼女、を見てナエさんは少し遠慮したようだった。彼女は察したように続けた。
「そうですね、ウシさんの当たりがキツいような気がして、申し訳ありません……ウシさんがフラワーアレンジに使われてる花、ナエさんのところの土地からもよくご厄介になってるんですが」
『年下に頭を下げるのはプライドが傷つくし、ましてや女』
というのがウシさんの考えらしかった。昔ながらというか、男尊女卑の根強い時代というか、そういうことだろう。
「土地よりも、管理する人だけを見ているみたいだね」
彼、がぼそっと呟いた。
ウシさんにとっては、自分より立場があるかどうかがすべての基準なのかもしれない。
2019/05/01 19:22
「あ、これ!」
部屋に行くところに飾ってあったブーケを見てナエさんは嬉しそうな声をあげた。
それは石鹸が細かく削って作られたバラでできている。
「あの子の、やっぱり、美しいわね」
「えぇ、なにか忙しいとかで、すぐ帰られてしまいましたが」
「そっかそっか。うふふ。
私もこのあと調査があるから、早いとこ証言だけするわね、ちょっとごめん……」
片手間にどこからか、小さなノート……新聞のスクラップブック?を出してナエさんは小さく畳んだそれを開いて、何かメモする。ちらりと見えた見出しは『街を騒がせている芸術テロ』だった。
「たまに起きるのよね、まぁ、会社側が悪いのだけど……
いわゆる『飼い殺し』が多発したのが起源らしいわ」
写真になっているのは、風船が飛んでいく絵だった。
風船の話が国語の教科書にあったなとぼくは思い出す。
花の種と手紙をつけて、空へ飛ばすのだ。授業でもやらされた。
――自由と解放の象徴。
または、救援信号。
誰かはわかっていないが、ある意味わかっている。
ぼくは会ってないが、彼、は会ったらしい。
似たような話が、昔もあった。
あのときは実際株価が変動はもちろん、税金逃れの名ばかりな会社が一気につぶれた。
みんなが知る芸能人や、大企業も融資に関わったと言われているが、わりとすぐに流れなくなったニュースである。
ぼくが事件をノートへ纏めた翌日、彼は後にそれをこう追記した。
もし最近の番組、芸人になんだか違和感があるな、とか、ある商品のCMがやたらと増えたなというときこういうものが関係している場合がある。
2019/05/02 18:20