壊れた少女は少年にキスをする
壊れた少女は少年にキスをする

 レースのカーテンが木漏れ日に照らされる。
 ワンルームマンションの一室。ベッドに横になっていた大人びた少女は、気配を感じ、杖をつきながら立ちあがる。
 白すぎる肌にショートボブの黒い髪がさらさらとなびく。
 右足を引きずるように玄関へ向かい、ドアを開けた。
「おかえり、ちひろ」
「ただいまー、めいちゃん」
 少女とそう歳の変わらない優木千尋《ゆうきちひろ》は屈託のない笑顔で抱きしめる。
「ん……、ちひろ汗臭いよ」
「ごめーん、今着替えるからね」
「でも、私も寂しかった」
「ごめんね、仕事で」
「いいよ。千尋はなにも謝ることないよ。ほんとに……、なにも」
 と長澤愛依子《ながさわめいこ》は不自由な右足へ視線を送る。幽霊のように光がない瞳と、人形のような完璧な顔だち。
 しかし艶やかで美しい透明な美少女の体には、たくさんの傷跡が刻まれている。
「ごめんね、こんな私のために、人生をめちゃくちゃにさせて」
「なに言ってるの? 僕はめいちゃんと一緒に居たいからいるだけだよ。めいちゃんと居られるだけで幸せだよ」
 何度となく自殺未遂をした愛依子を千尋は支えてきた。
 年齢的には高校三年生だが学校も行かず、二人で暮らしている。
 背景にあるのは血みどろの愛憎と、複雑な環境。
「大好き、めいちゃん」
 千尋はぎゅっと愛依子を抱きしめる。
「……ふっ……、ありがとう」
 と壊れた少女は少年にキスをした。
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