僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
*初めての
 三階建てアパートの、最上階の角部屋。そこが僕の住まいだ。

 建物の前までは退院時に葵咲(きさき)ちゃんと一緒にきたことはあるけれど、建物の中――というか部屋――に彼女をあげるのは初めてのことだった。

 いや、考えてみればそもそもこの部屋に人を招くこと自体初めてだ。

 ここは一階がピロティになっていて、そこに車を停められる。雨の日でも屋根がある駐車場というのはありがたいので、ここに決めた。

 ピロティ奥にあるエレベーターに乗り込むと、そのまま三階へ向かう。

 手を繋いでいるのに何故か横には並ばず、斜め後ろを歩くかたちになっている彼女を肩越しに透かし見て、僕は葵咲ちゃんが緊張しているのを感じた。

(いや、僕も結構ドキドキしてるんだけど)

 部屋に付いてきてくれるということは、つまりはそういうことなわけで……。
 
 エレベーターを降りて一番奥が僕の部屋だ。

 玄関扉を開けると、右手側に洗面所やトイレやお風呂といった水回りのものが固めてある間取りの部屋で、割と縦長に奥行きが広い構造だ。

 トイレやお風呂を右手側に見ながら短い廊下を抜けると、十畳のLDK。キッチンはカウンターキッチンになっていて、台所に立ちながらリビングが見渡せる。
 リビングの先が六畳の洋室で、そこは右手側の壁一面がクローゼットになっていて、収納には困らない。ちなみに僕はその部屋を寝室にしている。
 寝室を抜けた先には広めのバルコニーがある。屋根もあるので、洗濯を干したりするのにも困らない造りだ。

 とはいえ、男の一人暮らし。そんなに洗濯物も出ないし、キッチンからリビングが見渡せたところで見る相手もいないんだけど。

(片付けて出たっけ)

 そんなことを思いながらLDKに続く()りガラスの扉を開けると、ぱっと見、散らかった感じはしなかった。よかった。
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