僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』

3.side-Rihito-

 カーテン越しに差し込む淡い陽光に目を覚ました理人(りひと)は、ぼんやりしか見えない視界に驚いた。

 ついさっきまで、葵咲(きさき)と良いことをしていた気がするのに、今の理人は一人、病室と思しきところでベッドに横たわっていた。

 さっきまでクリアに見えていたはずの視界も、(しゃ)がかかったようにぼんやりしか見えない。

 コンタクトレンズもしていないようだ。

(夢?)

 そう考えるのが至極当然だと思えたけれど、下腹部はその夢の残滓(ざんし)を遺して硬く張りつめたままなのが、我ながら何とも生々しくてーー。

(……イッてなくてよかった)

 現状を思えば、この歳で夢精というのも少し恥ずかしい気がするし、何より自宅じゃない時点で処理とかアウトだろ、と思う。

 気持ちの整理を色々つけた後で、周りを見ると、葵咲が自分の手を握ったまま、理人の足にもたれかかるようにして眠っていた。

 一瞬やはりあれは夢ではなかったのかも?と思ったけれど、葵咲の安らかな寝顔を見ていると、やはり夢だったと思うのが現実的で。

 理人は複雑な思いを抱えたまま、葵咲の手をそっと握った。

 唇に、何となく葵咲の柔らかな唇の感触が残っている気がしたけれど、それもきっと気のせいだろう。


       END(2019/6/23)
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