僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
選書
 エレベーターの扉が開くと、果たしてそこには葵咲(きさき)ちゃんが立っていた。

 今日は白地にローズピンクのチューリップがあしらわれた、女性らしい華やかなワンピースだ。素材はシフォンだろうか。

 薄い生地が下着を薄ら透けさせていて、僕は何となく目のやり場に困った。

 僕が一人でカウンターにいるのを認めると、彼女の方も少し驚いたような顔をして立ち止まる。
 そういえば、僕がここで彼女を迎えるのは初めてだ。

「いらっしゃい」

 何となくその雰囲気が気まずくて、僕は努めて明るい声で呼び掛けた。

 その声に、葵咲ちゃんも弾かれたように歩きはじめる。

 カウンターまで来てから、
理人(りひと)、ホントにここの職員さんだったんだね」
 悪戯っぽく笑う。

「前にちゃんとそう言ったじゃない。こう見えて僕、ここの館長だから」

 葵咲ちゃんが笑ってくれたことで、少し緊張の糸が緩んだ。

 彼女がトートバッグから取り出した本を受け取りながら、そんな軽口も出た。

「次の、借りる?」

 返却処理をしながら問えば、
「いいの? もう閉館時間じゃないの?」
 今日は新しい本を借りるのは諦めていたのだと彼女は言う。

「平気だよ。まだ十九時(しちじ)になってないし。それに、僕が閉めない限りここは閉まらない」
< 44 / 132 >

この作品をシェア

pagetop