僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
目覚めてみると
 カーテン越しに差し込む淡い陽光に目を覚ました僕は、ぼんやりしか見えない視界にまず驚いた。

 どうやら僕はベッドに横たわっているらしい。

 着ていたはずのスーツは脱がされていて、見慣れない病衣を着せられていた。

 ベッド横に目を転じると、点滴らしき透明な袋がなんとなく見える。

(病院……?)

 いつもならコンタクトレンズをしているはずなんだけど、ここに運ばれた時に医療関係者によって取り除かれたんだろう。ド近眼な僕の目は、裸眼ではほとんど何も見えなかった。

 眼鏡……。
 コンタクトは無理にしてもせめて眼鏡ぐらいは欲しい。
 淡い期待を覚えてベッドサイドによく見えない視線を転じると、見慣れた眼鏡ケースが置かれていた。

 母親か父親が、僕のアパートから持ってきてくれたんだろうか。

 僕の勤め先は地元の大学なので、本当は実家から通うこともできたけれど、僕は社会人になったけじめとして市内にアパートを借りて暮らしていた。

 緊急用に、と一応実家には合鍵を渡していたから、きっとそれを使ったんだろう。
< 52 / 132 >

この作品をシェア

pagetop