僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
多忙
 退院したその日の内に仕事に復帰してから、僕は実に半月近く仕事に追われて過ごす羽目になった。

 館内の様子を調べてみると、七階から三階までが、どこも酷くぐちゃぐちゃになっていた。
 下層のフロアはそんなに揺れがなかったのか、数冊の本が落ちているだけですぐに片付いたんだけれど。

 ロビーのある七階は面展してあった本が棚ごと倒れていたり、パソコンも利用者向けのものが全て落下していて大破。
 図書館管理用のパソコンも、事務室内にあった方が倒れてきた書架に押しつぶされてお釈迦になっていた。
 毎日データのバックアップは取ってあったけれど、それでも新しいパソコンを導入しなおして一から復旧するとなると、現状ではそれさえ正直しんどくて。
 カウンター内にあったデスクトップパソコンが、モニターだけ落ちて、本体はギリギリ踏みとどまっていてくれたことは不幸中の幸いだったと思う。

 棚がドミノ倒しになってしまったのは六階だけだった。
 ほかのフロアは、書架は倒れこそしていなかったけれど、棚の位置はズレているものが結構あって、当然配架されていた本は床に落ちまくっていた。

 書架やパソコンが元通りに出来るまでは開館するわけにも行かず、図書館は依然として臨時休館を余儀なくされていた。

 それでも学生たちの日々の勉強も、教授たちの学会も普通にあるわけで――。

 結果、一日も早い復旧を……という声が日増しに高まり、僕は連日連夜残業をして対応をしている。

 もちろん、日中はバイトのみんなの手を借りたりもしたけれど……それにしたって仕事量が半端ない。

 何とか早急にこのゴタゴタを終わらせないと、葵咲(きさき)ちゃんにも会いに行けそうにない。

 利用者のために、とか……仕事だからやらねばならない、とかいうのは建前で、僕は葵咲ちゃんとのゆっくりとした時間を確保するために、とにかく急ピッチでこの難関を突破したくて無理をしているんだと思う。
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