僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 言われてみれば、学生時代の僕は風呂に入る前にコンタクトを外して、風呂上りから寝るまでずっと眼鏡で過ごす習慣があった。
 夜の受験勉強は眼鏡をかけてやっていた記憶がある。
 高校受験やら何やらで僕もなかなか彼女の相手が出来なかった頃の話だし、そんなことがあったことすらすっかり忘れていた。

 っていうか僕、裸だったっけ!?

葵咲(きさき)、僕、その時まさか真っぱ……?」

「――こ、腰にタオルは巻いてましたっ!!」

 下までは見てません!!

 葵咲ちゃんが慌てたように顔の前で手を振り回す。その慌てた仕草と、耳まで真っ赤にした顔が可愛くて、僕は思わず吹き出した。

「君になら全部見られても平気だったのに……」

 彼女が照れるのを分かっていてわざとそう言って笑うと、葵咲ちゃんに「小四の女の子にそんなの問題あるでしょ!」と胸元をグーパンチされた。

 葵咲ちゃんの怒ったような、はにかんだような顔を見て、僕が眼鏡をかけていても、もう大丈夫かな?と思った。

「ねぇ、葵咲。冗談抜きにしてさ……」
 そこで彼女を手招きする。求めに応じて僕のほうにほんの少し身を寄せてきた彼女に、立ち上がってテーブルに手をつく形で身を乗り出すと、僕は葵咲ちゃんの耳元に唇を寄せてささやいた。

「――僕の裸、ちゃんと見る気ない?」
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