僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
「ねぇ葵咲(きさき)、僕の気持ちは知ってるよね?」

 すぐには車を出さないで、ひとまずドアにロックをかけてから、僕は葵咲ちゃんの横顔に向かって問いかけた。 

 もう何年も、僕はずっと彼女に嫌というほど気持ちをぶつけ続けてきたのだ。知らないわけがない。
 なのに――。

「し、知らない……」
 この()に及んでそんなこと、どの口が言うんだろうね?

「それは照れ隠し? けど……ちょっと酷いんじゃない?」
 助手席に座る葵咲ちゃんの手に自分の手を重ねると、わざと耳元でささやくようにそう畳みかける。

 葵咲ちゃんは僕の問いにうつむいたまま。手を握られていて逃げられないからか、ほんの少し身体を強張らせていた。

 僕はそれに気付いていて、でも彼女を解放してあげる気なんてさらさらないのだ。

「葵咲、こっち向けよ」

 彼女の頬に手を伸ばすと、ほんの少し力を加えて自分のほうを向かせる。
 そうして葵咲ちゃんの目を正面から見つめながら、僕は言葉を続けた。

「知らないって言うんなら何度でも言ってやる。葵咲、僕は君が好きだ。葵咲は……僕のこと、どう思ってる?」

 正直最後の一文は言うのが凄く怖かった。

 なのに――。
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