今日も久遠くんは甘い言葉で私を惑わす。

もう外はすっかり日が暮れてしまっていた。


「……お前……」

「?!あっ……神木、くん……?」


誰もいないと思っていた廊下から突然声がして、驚きが隠せない。

この人は、神木蘭くん。7人の王子さまの中の1人に該当する人だ。


「蘭でいい。なぁ、お前、俺に勉強教えてくんね?」

「えっ?」


い、いま、勉強教えてって言った……?


「……俺、割と真面目なんだぜ?さすがに勉強しとかねーとまずいから、教えろ」

「あ、う、うん、いいよ」


意外だな。

やっぱり人間、全て見た目で決めつけてはだめだ。

カバンの中に詰めた筆箱やノートを取り出して、勉強を教え出した。


蘭くんは思っていたよりも全然スラスラと問題を解いていっている。


「蘭くんって、ひょっとして天才?」

「なにお前、舐めてんのか。うざっ」


蘭くんは不機嫌そうな顔をする。


「?急に冷たいね」

「気にしてねーのかよ」


?悪口を言われたことかな?


「全然。」

「変なヤツ」

「えへへへ〜」

「……でも、いいヤツだな」

「……?」


ひょっとして、蘭くんって、とてつもないツンデレ……?なのかな……?


「……蘭くんって、ツンデレ?」


気になったので、直球に聞いてみた。


「あ?てめぶっ殺すぞ」

「あ!だめだよ!そういうこと言ったら!」


そう言いながら私は蘭くんにデコピンをした。


「っ……あー嘘ですよ嘘」

「……」

「へっ!?久遠くんっ……!?」


蘭くんとこんなやりとりをしている間に、教室に久遠くんが入ってきた。


「どうしているの?」

「……天音こそなんでいんだよ」

「あっ……!喋ってくれたっ……!」


とってもとっても嬉しくて、胸がいっぱいになった。


「チッ……帰る」

「あっ……ば、バイバイッ……!!」


……とりあえず話せただけでもよしとしようっ……。


「なにニヤニヤしてんだよ」

「えっ……あ、話せて嬉しくて……」

「……お前、そうとう純粋なんだな」

「?そうかな?」


そうなのかわからないけど……。

「ああ、やばいぞ本当に高校生か?本当は幼稚園児じゃ——」

「そんなことないよ!!」


ただただ思ったことを言っただけなのに、それはひどいっ!


「あーはいはいっ。ふっ、お前、おもしれー
なマジで」

「え?そ、そうかな……?」


面白いっていうか、蘭くんにからかわれて遊ばれてるような気がするっ……。


「ああ、めっちゃ面白い。あ、天音連絡先交換しね?」

「べ、別にいいけど……」


まさかそんなことを言ってくるとはっ……!


「ふふっ、仲良くなれて嬉しいな」

「……天音って字の、天に音って、相当はあってるよな?」

「へっ?どういうこと?」


たしかに、両親がつけてくれた大切な大切な名前だから、とっても気に入っているけれど……。


「お前はまるで天使が微笑むような音のような声がする」

「?よ、よくわかんないっ……」

「とにかく、優しいヤツだ」

「あっ……ありがとう」


まさか、そう言ってもらえるとはっ……!

とっても嬉しいなっ!


「学園の天使って、マジだな」

「?、なにか言った?」

「なんも言ってない」

「そっか」


……絶対なんか言ったと思うけどっ……。



……久遠くん、私のこと、嫌いなの、かな……?


「……男の子が可愛く思う女の子って、どんな感じ?」

「……は?お前、鏡見れば?」

「へっ!?そんなにいま顔よくない!?」

「はぁ?そこまでやってると嘘に思えるぜ」


クスクスと笑い出す蘭くん。

な、なにか変なこと言ったかな?


「はーっ。ありえねお前。」

「そ、そう?」


私、やっぱりおかしいのかなっ……?

「……マジで、清いな。こっちが浄化されそうだ」

「ええっ……?あ、ありがとう、?なのかな?」

「ああ。礼として受け取っておけ」

「わ、わかった!」


蘭くんといると、なんだか楽しいな。

「お前、嫌いなヤツいる?」

「いないよ?」

「即答かよ。おもんねーな」

「ええっ……」


こんな調子で、久遠くんとの距離はあまり縮まらなかったが、蘭くんとは仲良くなれたのでした。
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