今日も久遠くんは甘い言葉で私を惑わす。
でも、わかった気がする。

私がいま怖いというか、悔しい気がするのは、久遠くんが好きだからだ。

「月城くん、ありがとう!」

月城くんがいま優しくしてくれたおかげで、正気を取り戻せた気がする。


「なんだか急に怖気付いた自分がバカみたいだよ!あの冷酷王子様が好きなら対価の覚悟が必要だよねっ……!!」

「……ふふっ、そうだね。」

本当に月城くんには感謝が止まない。

「あっ……月城くん!」

「ん?」

「仁くんって、呼んでもいいかな?」

「ふふっ、いいよ」

やった!

「ありがとうっ……!!」

仁くんっ……!!

えへへっ……また1人、素敵なお友達が増えたかなっ……!!


「……天音さん、辛そうだったから保健室連れてきたけど……どう?」

「あっ……よくなったよ!仁くんのおかげで……!!ありがとうっ……!!」

「……ううん全然」

せっかく保健室まできたのに、あんまり意味がなかったかな……?

いやっ、でも、保健室に行くおかげで仁くんにお話しを聞いてもらうことができたし、よかったよねっ……!!


「……あ、もう教室戻る?」

「あっ……うん!」

階段を私たちはゆっくり登って行く。



あれ……?視界が……!!


視界が歪み、後ろに倒れて行く私。

あっ……これ、死んじゃうヤツかな……?


「っ!!天音!!!!!」

えっ……。

わかったよ、こうやっておバカに……立ち眩んで死にそうになっちゃう時って、時が遅く感じるんだ。

それでね、久遠くんの声がするの。

ぎゅって、支えられて、ドンって倒れた気がした。

微かに身体に響く衝撃が、私の意識を乗っ取った。

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