僕惚れ②『温泉へ行こう!』
 一泊二日の旅行なのに、理人(りひと)とお出かけだと思うと嬉しくて、服を一式多く入れてしまっていた。
 でも、初日に着替えをする羽目になってしまい、結果として同じ服で彼とデートしなくて良くなって、ホッとした。

 靴だけはどれも黒いサンダルに合わせられるコーディネートを用意したけれど、服のせいで荷物が多くなってしまったのは事実。

 理人が私の荷物まで持ってくれたことを思うと、かさばり難い、薄い生地の夏服でよかった、と思ったのは彼には内緒にしておこうかな。
 

 服を着替えてお化粧を整えて、理人を見ると、彼はまだぐっすり眠っていた。
 相当疲れているのかな。
 私と一緒のときは微塵(みじん)もそんな気配を感じさせない彼だけど、こうして無防備に眠っている姿を見ると、そんな風に思う。

 チェックアウトは11時までだったから、もう少し寝かせておいてあげよう。

 そこでふと、「そういえば、家族にお土産(みやげ)を買ってなかったな」と思い至る。
 本当は昨日、観光途中に色々と見繕(みつくろ)うつもりだったけれど、予定が狂ってしまった。

 親公認でお泊りに来たのに、お土産なしはまずいよね。

 宿泊案内のリーフレットを確認すると、同じ階――1階――にある売店は七時からやっているみたいで。
 時計を見ると、もうすぐ開店する時間だった。

 私は少し迷って、理人にメモ書きを残すことにする。

“ちょっと売店に行ってきます。スマホ、持っているので何かあったら連絡ください。
   葵咲(きさき)


 忘れないようにスマホとお財布を手に持つと、私は少し迷って部屋のカードキーは持たずに出ることにした。
 昨今は旅館もホテル同様オートロックになっていて、ここも例外ではなくて。
 でも、そのお陰で、理人が眠っていても安心して外に出ることが出来る。
 オートロックになっていなかったら、鍵を持ち出すか、もしくは扉を開けっ放しで外に出ることになるし、それはさすがに気が引ける。

 スマホがあれば大丈夫だよね。

 最後にもう一度だけ理人の寝顔を堪能すると、私はそっと部屋を抜け出した。
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