あなたに、キスのその先を。
 取り(つくろ)うように一気にそう言ったら、頬がほんわかと熱を持ったのが分かった。私はそれを隠すように、慌てて両頬に手を当てる。

 そんな私の仕草を見た彼が、《《心底愛しいものを見つめるみたいに》》目を細めてとても優しく微笑むから。

 途端、私は心臓を撃ち抜かれたように身動きが取れなくなってしまった。

(わわわっ。どうしましょうっ! わ、私、塚田さんのこと、好きになってしまった気がするのです……!)

 一目惚れ、というものがあることは物語で読んで知っていたけれど、まさか自分にそうなる日が来るだなんて、思いもしなかった。

 でも……。

(あー、でも、でも……。健二さん(いいなずけ)というものがありながら、こんなの絶対に許されるわけないのですっ)

 私は頭を二、三度軽く振ると、芽生えたばかりの恋心にそっと(ふた)をした。
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