あなたに、キスのその先を。
 まるで私の心のうちなんてお見通しみたいに修太郎(しゅうたろう)さんがそうおっしゃるのに対して、小さな声で「はい……」と応えると、「――実は……僕も緊張しています」と返していらして。

 聞き間違いかと思って、少し手前を歩かれる修太郎さんのほうを思わず見つめたら、ちょうど通りかかった車のライトで、ほんの一瞬彼の横顔が照らされた。

「え?」

 見間違いでないとしたら……修太郎さん、お顔が赤くなっていらっしゃるかも?

 緊張しているのも、一緒にいて照れ臭いようなくすぐったいような気持ちがするのも、私一人の感情ではないと知ることができて、とても幸せな気持ちになる。

「修太郎さん」

 修太郎さんの名前を呼んで、彼の手をちょん、と軽く引いてから、振り返られた修太郎さんに向かって小さな声で「大好きです……」とつぶやく。

 言ってから、うつむいたまま彼の隣に並ぶと、私は思い切って、ほんの少しだけ修太郎さんのほうへ身体を寄せてみた――。
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