あなたに、キスのその先を。
***

日織(ひおり)さん、どちらへ?」

 大事をとって健二(けんじ)さんが戻られてから数分置いて席に戻ると、すぐさま修太郎《しゅうたろう》さんに声をかけられた。

 「お、お手洗いへ」と苦しい言い訳をすると、修太郎さんは瞳を細めて私をご覧になられてから、「健二との話はつきましたか?」とおっしゃった。

(わーん、お見通しだぁー)

 泣きそうになりながら健二さんのほうをチラリと見たら、申し訳なさそうに手でごめんなさいの形をとりながら頭を下げられた。

 それを見て、修太郎さんは私よりも先に弟さんに詰め寄られたのだと悟った。

「か、勝手なことをして申し訳ありません。健二さんのお母様のことを……宮美(みやび)さんのことをお願いしてました」

 修太郎さんに連れられて廊下に出た私は、壁と修太郎さんに挟まれるようにして立っている。眼前に立ちはだかる彼を見上げながらそう申し上げたら「どういう意味ですか?」と静かに問いかけられて。

 以前健二さんと仲良くした時に感じたような威圧感はないけれど、やはり長身なだけに修太郎さんに問い詰められると緊張してしまう。

 私はドキドキしながら、恐る恐る健二さんにご説明させていただいたのと同じことを修太郎さんにもお話した。

 すると、修太郎さんが息を呑まれたのが分かった。
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