あなたに、キスのその先を。
 修太郎(しゅうたろう)さんはベッドサイドに置かれたサイドテーブルの引き出しから、ピンク色のチューブを手に取られると、(ふた)を回し開けて中身をご自身の(てのひら)にほんの少しお出しになる。

 瞬間、ふわりと漂った瑞々しくスイートな香りに、私は思わず心奪われた。

「桃……?」

 修太郎さんの手から漂う、甘く(とろ)けるような香り。

 その芳香に誘われるように視線を修太郎さんの手元へ上向けた。でも次の瞬間、それがつい今し方、修太郎さんとの会話に出た桃の香りだと気付いたら、不意に恥ずかしくなってしまう。ぶわりと身体が熱を帯びて、頬や耳に(しゅ)がさしたのが分かった。

 修太郎さんは私のそんな反応を楽しまれるように、手に取られた白いクリームを見せつけながら、私の肩から指先へ向かって塗り込まれる。

 そうしながら、
「アロマリゾートのボディミルクです。ハッピースウィートピーチの香りといって、南ヨーロッパではお菓子やリキュールにも使われている、ヴィンヤードピーチのフレッシュな香りを閉じ込めたボディーケアアイテムだそうです」

 ボディクリームに添付されていたと(おぼ)しき説明書きを暗唱なさると、修太郎さんはにっこり微笑まれた。
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