私のおさげをほどかないで!
「知り合い?」
 私の服の袖口をチョン、と引っ張ってのぶちゃんが聞いてくるのへ、「バイト先の()()()常連さんだよ」と告げてから、自分がことさらに()()()というところを強調したことに違和感を覚えた。

「ね、行こう?」

 このままここにいたら自分がどんどん分からなくなりそうで怖い。

 のぶちゃんの手をギュッと握って、私は一刻も早くこの場を立ち去りたいのだ、と視線で訴えた。

 のぶちゃんは付き合いが長い。
 すぐに私の気持ちを察してくれて、助手席のドアを開けてくれる。

「お、おい! 待てよ!」

 鳥飼(とりかい)さんが何か言ってるけど無視!

 ふいっとそっぽを向く私を見て、のぶちゃんが「彼女が嫌がってるので失礼しますね」と鳥飼さんを牽制してくれて。

 鳥飼さんも娘?の前ではいつもの強気が出せないのか、案外あっさりと引き下がってくれてホッとする。

 小さな女の子にギュッと抱きつかれた鳥飼さんをサイドミラー越しに眺めながら、結局ヘアゴムを返してもらいそびれたな、って思った。
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