想い出は珈琲の薫りとともに
3.tre
気がつけば、街を彩っていた桜の木は薄紅色から青々とした緑の葉に変わり生い茂っている。
少し前まで肌寒い日が続いていたのに、もう初夏の気配を感じるような日差しの中、私は店に向かっていた。
(久しぶりでちょっと緊張する……)
店の従業員用の入口に立ち、私は深呼吸を一つする。理由あってしばらく休職していた私は、今日ようやく職場に復帰するのだ。
従業員用のカードキーをかざし、扉を開ける。入るとまずあるのは、小さな事務スペースだ。
「おはようございます。オーナー」
二つ並ぶだけのテーブルの一つに座り、タブレットを覗き込んでいたのは、このカフェ【セレーノ】のオーナー、表晴治さんだ。
「おはよう。桝田さん。また今日からよろしく。常連さんたちも復帰を心待ちにしていたよ」
オーナーは、柔かにダンディな笑顔を私に向けた。
「ありがとうございます。オーナーにはたくさん助けてもらいましたから、これからは恩に報いるよう働きますね」
「まあそんなに肩肘張らずに。困ったことはすぐに言うんだよ? 君には長くこの店にいてもらいたいからね」
父と変わらないほどの年齢のオーナーは、優しい口調で私にそう言ってくれた。
(この店で働けて、私は本当に幸せだ……)
不測の事態に陥った私を、オーナーが最大限サポートしてくれたおかげで今がある。私はそれに、感謝と言う言葉じゃ足りないくらい感謝していた。
少し前まで肌寒い日が続いていたのに、もう初夏の気配を感じるような日差しの中、私は店に向かっていた。
(久しぶりでちょっと緊張する……)
店の従業員用の入口に立ち、私は深呼吸を一つする。理由あってしばらく休職していた私は、今日ようやく職場に復帰するのだ。
従業員用のカードキーをかざし、扉を開ける。入るとまずあるのは、小さな事務スペースだ。
「おはようございます。オーナー」
二つ並ぶだけのテーブルの一つに座り、タブレットを覗き込んでいたのは、このカフェ【セレーノ】のオーナー、表晴治さんだ。
「おはよう。桝田さん。また今日からよろしく。常連さんたちも復帰を心待ちにしていたよ」
オーナーは、柔かにダンディな笑顔を私に向けた。
「ありがとうございます。オーナーにはたくさん助けてもらいましたから、これからは恩に報いるよう働きますね」
「まあそんなに肩肘張らずに。困ったことはすぐに言うんだよ? 君には長くこの店にいてもらいたいからね」
父と変わらないほどの年齢のオーナーは、優しい口調で私にそう言ってくれた。
(この店で働けて、私は本当に幸せだ……)
不測の事態に陥った私を、オーナーが最大限サポートしてくれたおかげで今がある。私はそれに、感謝と言う言葉じゃ足りないくらい感謝していた。