宛先不明ですが、手紙をしたためました。
7通目_.*・〆

想いをのせるツール




人気の無い棟の階段で、健太くんと2人っきりで話した、その翌日。

健太くんが教室に飛び込んできた、朝一の出来事だ。

彼は教室に足を踏み入れたと思ったら、真っ先に私の席までやって来る。

その姿は、あまり見たことが無い程に、興奮気味だ。

私は既に席に着いていて、見下ろされる形になる。

未だ、鼻息が荒い。



「は、華世ちゃん」

「おはよう。健太くん、どうしたの? 一旦、落ち着いて」



息を整えさせると、ようやく話せるようになったようだ。



「落ち着いた?」

「うん。その……華世ちゃんに一番に伝えたかったから」

「まさか……!」



私は口を押さえながら、例の結果を待つ。

健太くんは、私を見て頷いた。



「選ばれた」

「本当に!」



喜びのあまり、椅子から勢いよく立ち上がる。



「おめでとう! 試合、頑張ってね」

「ありがとう。良いところ、見せられるように頑張るから」



私に向けられた熱い視線は、強い意思を帯びていて、それは肌にビリビリと感じる程だった。

こんなにも本気になれるのは、素敵なことだ。

彼のそんなところにも、私の胸は熱くなる。



「応援してるからね」



私が応援の言葉を掛けているにも関わらず、健太くんは無言で、私から目を離さない。

名前を呼び掛けても、尚もじっと私を見つめたままで、言った。



「本当に、意味分かってる?」

「分かってるよ。高校での初舞台だもん。親御さんや、みんなに良いところ見せないとね」



意気揚々と答えた私に、健太くんは大きく溜め息を吐く。



「……そんなことだろうと思った。華世ちゃんらしいっちゃあ、らしいけど」

「え?」



健太くんは、ただ微笑んだ。

そして、1限目の授業に備え、席へと歩いていく。

これ以降、私と彼が会話をすることは、一度に無くなった。


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