宛先不明ですが、手紙をしたためました。



すると、お父さんの手が、私の頭に乗せられた。



「勘違いするなよ? 華世も同じだよ。俺達の、他に1人として居ない、大切な子だ」



お父さんこそ、勘違いしている。

有難いことに日々、注がれる愛情は実感しているから。

照れ臭いけど、嬉しい。



「うん……」

「……さては華世、彼氏出来た?」

「で、出来ないよ!」



彼氏という単語に、つい照れてしまい、大きな声で否定してしまった。



「まぁ、そういうのはタイミングだし。焦って作るもんじゃないよ」



そういって、お父さんも部屋着に着替えるため、リビングを出ていった。

1人取り残された私は、ソファに腰掛ける。

背もたれに身を預け、溜め息を吐いた。

──彼氏か……。

私には、あまりにも現実味の無い言葉だ。

得体が知れないから、想像すら出来ない。

その存在が、どれだけ重要なものなのかも分からない。

私は、未だ見ぬ誰かの特別になりたいだけ。

その人は突然現れて、すとん、と私を納得させる人。

作るだとか、そんな意図的なものではなく。

私は、そう信じている。


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