宛先不明ですが、手紙をしたためました。



「いやいや、そんな大袈裟だよ」

「大袈裟なことあるもんか! 大切なことだよ」



にこやかな楓の瞳の奥は、至って真剣で。

思わず、引き込まれてしまい、黙り込んでしまった。



「過去の出来事も華世の中では、嫌な出来事だったかもしれない。蜂矢くんが今、あんな風に優しくなれるのは、後悔してるからじゃない?」

「後悔?」

「気持ちが少しでも成長して、関係をやり直したいから華世に優しくするんだよ」

「そうなの、かな?」

「そうに決まってる」



楓は言い切る。

それが不思議でならない。



「何で、そこまで自信満々なの」

「え、だって……さっきの蜂矢くんの顔見た? 見てるこっちが恥ずかしくなるくらい、優しい目してたよ」

「見てないよ、そんなの……」

「蜂矢くんの顔、溶けちゃいそうだったよ」



私が顔を上げられない間に、健太くんがそんなことになっていたなんて。

思いもよらなかった。

楓は相変わらず、私に見せるニマニマ顔を見せる。



「昔がああだったから、あの人は駄目って決めつけるなんて、良くない。印象に縛り付けられたせいで、自分の本当の気持ちを隠しちゃうなんて、馬鹿げてる」



表情と台詞が全くもって、伴っていない。

それでも、楓の言葉はいつでも、胸に響く。

私を思ってくれてのことだから。

楓が私を大切に思ってくれる気持ちが、私の大切な気持ちの在り方を気付かせてくれた。


< 50 / 120 >

この作品をシェア

pagetop