宛先不明ですが、手紙をしたためました。



まだ昼休み中の教室に戻ると、私の席に楓が座っていた。



「ごめんね。只今、戻りました」

「おかえり」



楓は微笑みながら迎えてくれた後、カードを引っくり返した様に、一瞬で真剣な表情に変わる。



「ちゃんと断れた?」

「うっ。何故、それを」

「教室まで来た、あの子、手紙持ってたから。どうせ海藤宛てのでしょ?」

「さすが、鋭い」



渋々、ブレザーのポケットから、例のラブレターを取り出す。

楓は、目を見開いた。




「引き受けちゃったの?!」

「はい……」

「まぁ、直ぐに断れるなら、苦労しないか。で? どうするの、それ」

「ん……これで引き受けるのは、本当に最後にすると言うことで、渡すだけ渡してきます」



項垂れながらも、もう代理人を止めたいという強い意思は、この胸の内に確かにある。

本当に最後。

これが、最後。

それに、あの女の子に言われたことも、いろいろ気掛かりになっている。

『海藤くんと話してるところ、結構見かけるって、みんな言ってるよ』

『海藤くんの前では、何も言えなくなっちゃうものなんだよ。栗山さんには、分からないだろうけど』

私だって、海藤くんと話す時は、あの爽やかな笑顔に圧倒されて、声が上擦るし。

私だって、海藤くんの前で、平気なんかじゃないのに。

今日、初めて喋った女の子が、私のこと、楓みたいに分かってくれている筈ないのに。

そんな謂われをされる覚えは無い。

少し悔しくなった。



「華世……?」


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