宛先不明ですが、手紙をしたためました。

伝わらないなら ただの紙切れ




『「好きなもの」とは別物だよ。そうじゃなくて「大切な人」なんだと思うよ』

『好きな子が他の人と喋ってる姿、見てるだけでもモヤモヤする、とかね』

『で? 休みの理由は、何にしたんだっけ?』

『腹痛って、言ってあります』

『よく通りましたね――

最近までのいろんな場面が、頭を巡る。

直近にあった楓と健太くんの会話も蘇ってくる。

2人が盛り上がっていたときの、妙にモヤモヤした感覚を思い出した。

というか、そもそも自分自身が健太くんのことを「好きだ」と既に気付いている。

あとは、どう伝えるかだけが、問題となる。

その答が手紙で、良いものなのか。

悩む私だったが、ふと思い浮かんだ。

『ずっと手帳に挟んであって、大切に残してあったみたい』

誰に貰ったかが、重要になる手紙。

お母さんのように、ずっと手元に残してもらいたいとは決して言わない。

だけど、いつまでも形が残ると思うと、言葉よりも手紙の方が素敵に思えてしまった。

本格的に決めた。

もう迷いも無い。

手紙を書こう。

学校から帰ってくるなり、自室へ閉じ籠ると、スクールバッグの中から真っ白で、至ってシンプルな便箋を取り出した。

下校途中に、文房具屋さんに寄って、買ってきた物だ。

早速、それを勉強机の上に広げる。

ボールペンを手に持つ。

いろいろ考えてみるが、本文がなかなか決まらない。

とりあえず、1行目に彼の名前を書いてみる。

『健太くん』

そう書かれた自分の字と、にらめっこし合った。


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