政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「バカか⁉︎ そんなこと言っている場合じゃないだろう⁉︎」
 思わず、槙野の言葉が荒くなる。

「なんで、お前がそんなに真剣になるんだ?」
「だって、長くはないなんて……」
 目の前にいる片倉はとても元気そうに見えるのに、長くないなんて考えられない。

「槙野、誰が病気だと思ってる?」
「は? 片倉……?」

「あーうん、僕も誤解を招く言い方だったかも知れないな」
「え? 違うのか」
 腕を組んだ片倉が温い笑みを浮かべていた。

 他の人の事ならば落ち着いて考えられるけれど、こと片倉の件については槙野は冷静になることはできない。

 親友であり仕事上のパートナーでもあり、そして恩人でもある大事な存在なのだ。

 しかし、この様子では片倉ではないようだ。
 いつもならしっかり裏を取って、冷静に判断できるのに片倉のこととなると槙野は盲目となってしまう。
 どうやら早とちりだったようである。

「健康診断の結果は良好だったな。ジョギングも続けているし」
「健康かよ」
「健康だな」
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