買われた娘は主人のもの

主人を見つめて

「…お支度はできた。御主人様の前でも、あなたらしくいてね?」

 バスルームで身支度をされるエイミ。
 笑顔のコリーンに言われたその言葉に、彼女は真面目な顔でしっかりと頷いた。

「はい、コリーン様…!」


 外から鍵のかけられた部屋で主人を待つ、この一人きりのひととき。エイミは強く目を閉じた。

(耐えるの…。怖くて酷い方だけど、私は買われたんだから…怯えないようにしなくちゃ…)

 昨晩の主人は、なぜ『罰』だと言った│抱擁《ほうよう》を途中で止めたのか。

 また失望させてしまったのかもしれない。
 自分は役目を喜んで受ける気になっていないが、それでも執事長に告げた通り、逃げ出す気は無い。

 エイミは何とか自分の運命を受け入れる覚悟を決めようとしていた。


 主人がやってきた。
 部屋に入ると脇目も振らずにエイミのもとへ。

 手を前で縛られたエイミはじっとベッドに座り、主人がそばに来るのを待つ。
 そして、エイミは怯えながらも必死で主人の顔を見つめた。

「…!」

 一瞬、濃い色の瞳が見開かれ、表情の見えない主人でも驚いているのがエイミにも分かった。
 しかし、

「…止めてくれと、乞うつもりか?」

主人は感情の映さないいつもの声で問い掛けてきた。

「い、いいえ…」

 座ったまま両肩を押さえられたエイミは、まだ必死に主人を見つめたままそう返す。
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