買われた娘は主人のもの

主人の想いと疑問

「…。」

 黙り込んだエイミのもとに、主人は近付く。
 小さな窓からの朝の光は主人の面をさらに隠し、怯えたエイミは思わず目をつぶった。

「…悲しくなる…私に怯えられると…。『リュカ』は、私に怯えさせるためではなかったのに…」

 悲しげな主人の声が、エイミのすぐ上から聞こえる。

 ぬいぐるみをくれたのは主人ではなくテイルだった。しかし今の言い方は、どう聞いても主人が贈ったというような言い方。
 しかも主人はしっかりと『リュカ』と言った。

 まさか、自分があの一件の際に呟いたぬいぐるみの名を、主人が覚えていたとは。

 エイミは恐る恐る目を開きゆっくりと、主人の声のした上を見る。

 主人の仮面ごしの目がうっすらと細められる。それはまるで優しく笑っているようにも見えた。

 主人は何も言わず、震えるこぶしを下げたまま握りしめている。
 それは自分を叩こうとしているわけではないとエイミにも何となく分かった。

 エイミは、主人の言いたいことが何なのか、ぬいぐるみをくれたのは主人だったのかを尋ねようかと必死に考える。

 しかし主人はようやく口を開く。

「…食事を終えろ。コリーンを呼ぶ」

 それは穏やかな声。
 どこかで聞いたような不器用なその雰囲気に、エイミは主人がなぜか違う人間に見えた。

「…はい…」

 エイミは何も考えられなくなり、なんとかそう返事をすると食事を続けたのだった。
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