・LOVER—いつもあなたの腕の中—
「優……」

「向こうでも頑張ってね」


 言いかけた隆好の声を遮るように、激励を飛ばした。驚いた顔で見つめる隆好を目に焼きつける。


 待っていてもいい?


 本当に言いたかった台詞を強引に飲み込み。絞り出すように真逆の台詞を隆好へ贈った。


 約束などできないことは分かっている。
 だから、せめて隆好を悲しませないように明るく見送るのが私の役目。
 何も心配などせずに遠くから応援しているからと、送り出すのが私の役目だ。


「裕隆のこと頼むよ。社内で馴染むには時間もかかるだろうし、周囲が認めてくれるまでは優羽がサポートしてやって」

「うん。任せて」


 隆好の親指が私の唇をなぞる。静かに近づいた隆好の唇が重なる直前。
 寸止めされ、静かに離れてしまった。

 私を抱き寄せ一度だけ強く抱きしめた隆好は、静かに身体を離し。想いを振り払うように、左右に頭を振り。
 大きく深呼吸した隆好は「じゃあね」と、私の頭をポンと叩き屋上から姿を消した。


 見上げれば、前に隆好と一緒に見た夜空と同じように。澄んだ空から今にも降って来そうな無数の星が瞬いている。

 あの時は、これから先の未来に胸を膨らませて二人で眺めた星空なのに。こうして一人で眺めることになるなんて、思ってもいなかった。
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