甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
【秘密の時間に溺れゆく】
桜の木は、すっかり緑色に変わり、忙しい毎日が過ぎていった。
明日は休み。
ゆっくり寝ようかなぁ。
うーん、それとも買い物に出掛けようか。
湊さんは忙しいらしく、Webで会議に参加してて、あれから会うことは無かった。
私は木島さんの業務を一部任され、仕事も増えていった。
「木島さん、契約書作成出来ました。確認お願いします」
「ありがとう。チェックしとくよ。色々頼んでごめんね」
「い、いえ大丈夫です。まだ何かありますか?」
「今日はもう遅いから、この辺で終わろう。僕も帰るから。お疲れ様」
ふと時計を見ると、21時を回っていた。
「もうこんな時間」
その時、会社の電話が鳴った。
珍しい、こんな時間に。
「佐々倉フーズでございます。あっ、お疲れ様です。えぇ、佐々倉さんも一緒にいますが……えっ?……はいっ、わかりました。佐々倉さんには僕から伝えます」
いつも冷静な木島さんの慌てぶりから、何かあったと緊張が走った。
「佐々倉さん、社長が接待中に倒れて、病院に運ばれたらしいんだ。軽い脳貧血で心配はいらないけど、念のために今日は一晩入院して、明日検査するらしいよ。病院に行くなら車で送るけど、どうする?」
「は、はい。お願いします」
今までお父さんが倒れることなんて無かったから、気が動転した私は、手元がおぼつがず、机の書類をばらまいてしまった。
「すみません、直ぐ片付けます」
「大丈夫だよ。落ち着いて。明日片付けに僕が来るから、すぐに行こう」
こうしてみると、やはり木島さんは頼りになる。
一緒にいてくれて良かったと、心から思った。

病院に着き、もう消灯時間になっていたけど、病室に通してくれた。
「お父さん、大丈夫?」
お母さんが立ち上がって「ありがとうございます」と木島さんに頭を下げていた。
「すまない、心配かけて。木島くんまで。大丈夫だから」
「いえ。社長がご無事で安心しました」
「直ぐに戻るけど、その間、色々と調整頼むよ」
「わかりました。ご無理なさらず、休んで下さい」
「あぁ、ありがとう」
私は何て非力なんだろう。
お父さんが倒れてしまったら、佐々倉はどうなるんだろう。
考えただけで、震えがきた。
「私も無理が利かなくなったね…今日で改めて実感したよ。あぁ…君達2人が一緒になって、私の後を継いでくれたら、安心できるのにね」
そう言うと、お父さんはゆっくり目を閉じて、眠りについた。
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