再会してからは、初恋の人の溺愛が止まりません
始まった恋


あれは小学六年生の秋頃だった。








放課後、文化祭の準備でいつもより遅い時間の電車に乗っていた。

いつもなら仲の良かった幼なじみと一緒に帰っていたけど、その子は風邪を引いて欠席していたので、一人で帰っていた。

一人で乗る電車は退屈だ。

あたしはその日図書室で借りてきた本を読んで暇つぶしをしていた。

十ページ読み進めて行く内に電車が停車した。

この辺りは大きな乗り換え駅で、乗り降りする人が多い。

その時、最後に降りた学ランをまとった男の人の肩がけの通学鞄のサイドポケットから何かが落ちていった。

あたしの目に捉えたのは定期入れだった。

これないと困るよね。

あたしは慌ててそれを拾い上げ、乗り込んでくる人を避けながら電車から降りた。

学ランを着た、茶色い髪の人。

降りる前に見た特徴を思い起こしながら、定期入れの持ち主を探していく。

持ち主は先頭車両がとまる位置で佇んでいた。

いきなり声をかけたらびっくりしないかな……。

あたしは持ち主を前にためらっていたけど、いつまでもそのままでいる訳にはいかはい。

思い切って声をかけることにした。


「あの、これ落としましたよ」

その声は思ったより小さなものだったけど、彼に届いたのかゆっくりとあたしの方へ振り向いた。

その容貌を目にした瞬間、あたしは時間が止まったような錯覚に襲われた。
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