再会してからは、初恋の人の溺愛が止まりません
数日後の朝。


今日は珍しく早く目を覚ました。

寝起きがあまりよくないあたしは、ギリギリまでベッドから動けない。

二度寝はもったいない気がして、あたしはそのまま起き上がり、学校へ行く支度を始めた。



「あ……」


快速に乗り換えるために途中下車したホームを歩いていると、あたしの歩みはぴたりと止まった。

定期入れの人がいたからだ。

まさか会えるとは夢にも思わなかった。

彼が着ていた黒の学ランから、私立の菖蒲(しょうぶ)高校の人だと分かっていたけど、通学や通勤の人でごった返しする路線だからもう会えないと思っていた。

どんな人か知らないのに、あたしはなぜか嬉しかった。

彼はあたしの声に気付いたのかゆっくりと振り返った。

あたしを捉えた瞬間、彼は琥珀色の双眸を瞠目させた。

お互い同時に無言で会釈をする。


「また、会いましたね……」


なぜか彼を直視出来ず、目を伏せてしまった。

しかし、そらすのは失礼だと思い、緊張で締め付けられる胸を自覚しながら伏せた目を彼に向けた。


「びっくりしたよ。あの時助かったよ。ありがとう」


目を細めて破顔する彼に、あたしは目を丸くさせた。

また、胸の中がきゅってなった……。

あたしはぽーっと熱に浮かれた状態になっていた。

その時、回送列車が通過した。

その影響による風にあおられてかぶっていた学校指定のベレー帽が飛ばされてしまう。

線路の方へ飛んで落ちていきそうになったけれど、すんでで彼が掴みとってくれた。


「落ちなくてよかった」


彼はそう言いながら風で乱れたあたしの髪を手ぐしで整え、帽子をかぶらせてくれた。


「ありがとう、ございます……っ」


彼の手が髪に触れたと思うと、なぜか頬が熱い。

あたしは病気になってしまったの……?

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