僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

だから言ったのに

 早退した日を含めて3日目になって、僕は大分しんどくなくなって来て。

 初日の夜、葵咲(きさき)ちゃんをリビングのソファで寝かせるとか言語道断だと気づいた僕は、解熱鎮痛剤が効いている間に布団を抱えて隣の洋室に移動した。

 もちろん、寝室の窓は全開にして、使ったシーツなどは全部はがして洗濯機に突っ込んで回しておいた。

 ゴソゴソとし始めた僕に気付いた葵咲ちゃんが「理人(りひと)私が!」って声を掛けてくれたけど、「お願い、リビングに……こもっ、てて?」って強く言い聞かせて別室に押し込めたんだ。

 幸い今住んでいるマンションは玄関からホールを抜けた先、主寝室とリビングの他に洋室がもうひとつある。
 葵咲ちゃんと婚約をした時に先を見越して広いところに引っ越してきたけれど、正解だったとつくづく思った。

 リビングはリビングダイニングの形でキッチンと繋がっているから、そこに僕がこもるわけにはいかない。
 かといって今みたいに主寝室を占拠したままだと葵咲ちゃんが寝るところに困ってしまう。

 日頃はあまり使っていない――子供ができたら子供部屋にすればいいねって2人で話していた――空きの洋間に引きこもるのがベストだと判断した僕は、そこへ布団を敷いて、ほぉっと吐息を落とした。
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