僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 季節は9月に入ったばかり。
 盆を過ぎた辺りから少しずつ酷暑は和らいできたけれど、まだまだ残暑厳しい折。

 天気の良い日に外を出歩けば、それなりに汗ばんでしまう。

 葵咲(きさき)は肩口を少し越えた艶やかな黒髪をポニーテールにして、キャップを被って理人(りひと)とともに近所のスーパーまでお散歩がてら歩いて帰ってきたところだ。

 日頃はパンプスやミュールなどが多い葵咲だけれど、今日はスニーカーを履いて、カーキのロゴ入りTシャツに、デニム素材の白色ロングスカート姿。

 ふわっとしたシフォン素材のフェミニンな格好も似合うし、圧倒的にそちらの割合が高い葵咲だけれど、こう言う少し毛色の違ったコーディネートも文句なしに可愛いな、などと思った理人だ。

 ちなみに背中を気にする葵咲を見つめる理人の方は、彼女とお揃いのロゴが入った色違いの白Tシャツに、ブルーのジーンズといった出立ち。

 せっかくの休日だし、スーツを着ない日ぐらいは葵咲とプチペアコーデを楽しみたいと思ってしまった。

 葵咲に、一緒にMHLの色違いのTシャツを買わない?と提案された時、すごく嬉しくて大喜びした理人だ。

 一緒に買い物へ出かけようと言う話になった時、「あのTシャツを着て行こうよ!」とルンルンで提案したのは理人の方で、葵咲は戸惑いながらも恋人に合わせてくれた。
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