僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

理人はどっちが好きなの?

葵咲(きさき)()()()。やっと1日終わった。……早くキミの待つ家に帰りたいよ』

 いつもなら「葵咲」と呼び捨てるところを、開口一番ちゃん付けで弱音を吐いてきた理人(りひと)に、内心苦笑の葵咲だ。

「頑張ったね。ご飯はもう食べたの?」

 努めて冷静に声を掛けたのは、理人がグダグダに弱っているのが分かったから。

 葵咲だって、本当はいつも一緒の理人がいない夜がものすごく寂しいのだけれど、自分まで一緒になって理人に同調してしまったらダメだと思って。

 年齢こそ理人の方が上だけど、精神的には葵咲の方が確実に上だ。

 もちろん、理人だって普段から四六時中こんなに頼りないわけではない。

 ただ、こと葵咲が絡むと理人は本当にダメで。
 甘えん坊のヘタレに成り下がってしまう。

 それが分かっているから葵咲も基本気丈に振る舞うよう心がけている。

 葵咲が本気で弱っている時であれば、理人はこのヘタレ具合が嘘みたいに、しっかりと葵咲を支えてくれるというのも知っているから……。
 だから甘えさせてあげられる時にはとことん甘えさせてあげたいと思ってしまう葵咲だ。
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