名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
私は、携帯電話を持ちながら平身低頭の平謝り。
 しゃべっている事と言えば、
 「はい」「申し訳ございません」「わかりました」「すぐに」のローテーションで、電話の先の不機嫌な声が ”少しでもよくなりますように” としか、考えられない。
 緊張で、手汗をかきながら必死だった。

 たとえ、朝倉翔也様のリテイク内容が良く分からないものだとしても!

 「天使の羽根の角度がちょっとね、気に入らないんだ」
   
 「はい、すぐに直します。ご希望ございますか?」

 「だから羽根の角度のを直して欲しいんです」

 だからどう直せばお気に召すのか聞いてんのに! でも、そんな事言えない。
 「はあ、わかりました」

 「任せたよ、いいね、頼んだよ!」
 と、電話が切れた。
 もう、適当な事を言って!
 携帯電話をぶん投げたい衝動に駆られるが、携帯電話に罪はなく、そんな事をしたら自分が困るので思い留まり、代わりにクッションを思いっきり壁に向かって叩き付けた。

 「くーっ、やなヤツ!やなヤツ!」
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