名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
 将嗣が顔の角度をかえ唇がかすめた。でも、それ以上触れる事なく、将嗣は私から少し離れて「おやすみ」と微笑みを浮かべる。
 そして、美優をチャイルドシートから降ろし、軽く抱きしめてから私の腕に渡し、もう一度「おやすみ」と呟いた。

 将嗣は車に乗り込むと直ぐにエンジンを掛かけ、発進させた。段々とテールランプが小さくなってく、私は、そのランプを見つめながら少しの切なさを感じていた。
 
 玄関のドアを閉めると、ドッと疲れが押し寄せる。
 遊び疲れて眠った美優をベッドに寝かせ寝顔を眺めていると複雑な思いに駆られた。

 耳や目の部分が、父親である将嗣に似ている……。

 常識や血のつながりの大切さ。
 それに将嗣の過去の過ちを償うような対応、優しさ。
  
 美優の母親としてこの先どうしたらいいのか……。
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