名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
朝倉先生を見送り、玄関に戻ると体の力が抜けてへたり込んでしまった。

 ジェットコースターのような一日だった。
 娘と一緒に大泣きしたと思ったら、朝倉先生が現れて、先生があの日のヒーローだったなんて……。
 そして、朝倉先生の優しさに触れる度に心臓がドキドキと跳ねる。
 
 ああ、もう!30点の女が何言っているの!
 万が一にもザ・パーフェクトの朝倉先生となんて、あるわけないんだから
憧れと恋心を間違えたりしない。
 心に硬い鍵を掛けよう。

「さあ、今のうちに仕事!仕事!!」

 両手で頬をパチンと叩き、気合を入れて立ち上がった。

 仕事をするためデスクに向かい、PCを立ち上げ、アプリを起こす。PC画面のギャラリーの中にあるイラストを選ぶ時、朝倉先生の書いたイラストも表示されていた。
 その子供の落書きのようなイラストを眺めていると朝倉先生とキスをしそうになった距離のことを思い出す。
 鼻腔をくすぐるウッディーな香りが漂う近さ、間近に迫った顔。
 ドキドキと心臓が跳ねる。

 なるべく考え無いようにと思っているのに、気を抜くとホワホワと朝倉先生の事を考えている。自分では制御不能な状態で、朝倉先生の事で頭が一杯になっている。
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