御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
敵がキタ
 言いながら、夏美は、あずさの言っていた「女の影」がキタ、と思って気が気ではなかった。女性だって知ってたら、もっと自分でもバリヤーをはれたのに、とも思う。どうしてトシさんが女性だと言ってくれなかったんだ、と隆をにらんで、あっ、と思い出す。何度かトシさんの話でかみあわなくなった瞬間があった。あそこで、もっとちゃんと問い詰めておけば、と今になって悔やまれる。
 夏美は、敏恵に何と言えばいいのかわからなくなった。敏恵が隆に何か耳打ちした。
 えっ、私のことを言ってる…?
 つい疑心暗鬼になってしまう。すると隆と敏恵は夏美のいる場所から離れていった。
 な、何…かんじ悪い…!
 さすがに夏美も憤ってしまった。会場の中で、隆がいないと夏美はどうしたらいいのかわからなかった。レストランのウエイターに飲み物をすすめられるまま、飲んでしまう。飲んでからシャンパンだ、と気づいた。
 やばい。酔っちゃうかも…。
 眠気のある頭にシャンパンはきつかった。困っているとわあっとさざめきが起こった。皆から口々に名前を呼ばれながら、濱見崎が登場した。遅れて来るらしい、とは隆から聞いていた。濱見崎は夏美を見つけてくれて、近づいてきた。
「おやおやパーティの主役が一人ですか。会うのは久しぶりだね、沢渡さん」
「濱見崎先生…!ご無沙汰しています。色んなことが濱見崎先生のおかげでうまくいっていて、私、感謝してもしきれなくて」
「いやいや、自分の実力だと胸を張っていいんですよ。今回のことで、力をためて、しっかりこれからはばたいてください」
「ありがとうございます」
「それにしても、隆は?あいつ、主役で奥さんでもあるあなたのことをほったらかしにして。だめな副社長だなあ」
 濱見崎には、隆から夏美と婚約したことを知らせてもらっていた。
「ダメですみません。濱見崎先生こそ、主役なのに遅刻したでしょ」
 濱見崎の後ろから隆が現れて言った。
「おっと本人がいた。おや、そちらの美人は?」
 隆の横には、寄り添うように敏恵が立っている。お酒を飲んだのか頬がほんのりと赤い。
「はじめまして。隆君の同級生で永川敏恵と申します。先生の作品の大ファンなんです。作品は全て読ませていただいています。ミステリーの最新作も読みました。女性二人の物語で、サラ・ウォーターズを凌駕していると思いました」
< 53 / 86 >

この作品をシェア

pagetop