すてられた想い人をなぐさめたら、逆に私がひろわれました!?
***

「着いたぞ」

 ゆさゆさと身体を揺すられて、私はハッと目を開けた。

 わ、私のバカぁ〜!

 気がつくと、いつの間にか私、柳川(やながわ)()()()()眠りこけていて。


「ひゃっ、嘘っ、ごめっ」

 慌てて身体を起こしたら、頭がクラッとして身体が揺らめいた。

「バカ。まだ酒、抜けてねぇんだから急に動くな」

 言われて、私の手をギュッと掴むように支えてくれた柳川が、私を車から降ろしてくれる。

 車外に出る際、車の(ピラー)で頭を打たないように、そっと大きな手でカバーしてくれたのにキュンとしたとか……柳川は鈍いから気づいてないだろうな。


 走り去って行くタクシーのテールランプの赤をぼんやり見つめながら、私はハッとした。

「たっ、タクシー代……!」

 慌ててカバンからお財布を取り出そうとしたら身体がフラリと傾いて、柳川にギュッと抱き寄せられる。

「なぁ鳴宮(なるみや)。そんなんいいからとりあえず立つ事と歩く事に集中してくんね?」

 溜め息混じりに言われて、確かにその通りだと思った私は小さくうなずいた。
 お財布は部屋(うえ)に着いてからでも取り出せる。



 う〜。でも、でもっ。大好きな男の子とこんなに密着しちゃっていいのかなっ?

 そう思ってドキドキしているのは、きっと私だけ。

 アパートの階段を柳川に支えられて一段一段登りながら、バカみたいに踊り騒いでいる鼓動に気付かれやしないかとヒヤヒヤしてしまう。

 なのにこの時間が永遠に続けばいいとも思ってしまってるの、矛盾(むじゅん)してるよね。
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