すてられた想い人をなぐさめたら、逆に私がひろわれました!?
「ん〜? なにを?」

 そうしながら、『粘菌生活のよろこび』という、ちょっぴりマニアックな……でもとっても綺麗なフルカラー写真が眼福な単行本からちらりと顔を上げると、私は(かえで)に向かって小首を傾げる。


「今朝ね、正門のところで柳川(やながわ)が――」

 〝柳川〟と聞いて、私は読んでいた本を放り投げるようにして楓の方へ身体ごと向き直った。

「柳川がどうしたのっ!?」

 言うと同時に腰が浮いて。
 まさか事故とか!?と不吉なことを思って、頭の中、いま紙面で見たばかりのピンク色の愛らしい変形菌(マメホコリ)が、まん丸な体を震わせながら、コロコロと谷底へ転がり落ちていく。

 いや、柳川のイメージだとマメホコリより瑠璃色に美しく光り輝いて見えるルリホコリかな。

 だって、だって。誰が何と言おうと、柳川は私にとってはピカイチに輝いて見える存在だから。

 155センチの私から見ると、175センチを超えた柳川は、とっても背が高く見える。
 でも、基本的にはゼミの研究室で椅子に腰掛けた彼と対峙することが多いからか、私は柳川のつむじを見る機会が多くて。

 横に何気なく立ったときに見える、柳川の、ナチュラルなスパイラルパーマを当てたセンター分けの刈り上げマッシュは、入学した当初から変わっていない。

 そんな彼が立ち上がった時の、自分との身長差にいつもキュンとしてしまうの。


 何て事はどうでもよくて!


「ちょっと落ち着こっか」

 周りの注目を集めつつあるのを察して、楓が私をたしなめる。

 そろそろと、浮かせかけたお尻を席に降ろすと、私は声を低めて(かえで)に先を(うなが)した。
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