若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 快闊に笑う仰木の姿は、もし父親が生きていたらこんな風になっているのかもしれないとマツリカに郷愁を抱かせる。海上で人生の半分以上を過ごし、余生をハワイで送る仰木はしんみりとした顔のマツリカに、「そんな顔しなさんな」と支配人室の戸棚から古ぼけたアルバムを差し出す。

「これは……?」
「十五年前の夏にシンガポールで撮った写真さ。ほら、これがお嬢ちゃんのお父さんだ」
「バパ!」

 色褪せた写真にはマツリカが幼い頃見ていた父の姿が映っていた。航海士としての制服を着た凛々しい姿に、胸がときめく。

「出航前に一枚撮ったんだ。このときはまさか遺影になるとは誰も思わなかっただろうよ」
「あの、そのことなんですけど」

 仰木とマツリカのやりとりを黙ってみていたカナトが申し訳なさそうに口を挟む。彼はやれやれと嘆息し、マツリカの揺れる瞳を睨みながらきっぱりと告げる。

「事故は起こるべくして起こったことだ。あの状況は経験のある航海士ですら予測できなかった。游が動いてくれたから被害は最小限に抑えられたんだ――だから誰も恨んじゃいけねぇ、自然が相手なんだからな」
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