若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 ――この関係にはいつか終わりが来る。この美しい桜の花がすべて散ってしまうように。

 マツリカの身体が強ばったことに、カナトは気づくことなく上機嫌で王氏と会話をつづけている。

「そろそろ父を安心させてやらないといけませんからね」
「けれど……いや、ここではなすのは野暮だな。マツリカ・キザキ。クルーズのあいだ、彼をしっかり支えておくれ」

 王氏はマツリカがクルーズが終わるまでのカナトの女避けとして専属コンシェルジュになったものだと考えているのだろう、彼女に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。「はい」と弱々しく頷くマツリカに気づいたのは、どこか心配そうな表情を浮かべている尾田だけだった。
< 187 / 298 >

この作品をシェア

pagetop