若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 バタン! と勢いよく開いた扉を見て、カナトはおや、と顔をしかめる。
 王夫妻と映画を観てきたマツリカは、なぜか困惑した表情でカナトの前に立っていた。

「マツリカ?」
「……カナト、ど、どうしよう」
「どうしようって?」
「あ、あたし。このクルーズが終わったら結婚させられちゃうみたい」
「結婚、させられちゃう?」

 いや、たしかに俺はマツリカを花嫁にしたいけれど、結婚させられちゃうって、ナンダソレ。そんな強制的なことをするつもりはないぞ、と言おうとして、彼女の必死な瞳を前に凍りつく。

「マイくんが、あたしを妻に望んでるの……あたしはそれがイヤで、ずっと海外にいたの。だけどハゴロモの終着地は東京。西島さんもたまには里帰りしろって義父に連絡とってくれたけど……」
「ちょ、ちょっと待ておちつけマツリカ。マイルってのは義理の弟だろ? そう簡単に結婚させられるなんて」
「彼ならやりかねないの! きっと復讐をあたしと一緒にするつもりなのよ、あたしはそんなつもりでBPWに就職したわけじゃないのに。ただバパの痕跡を探したかっただけなのに!」
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