若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 クリスマスはバリ島で過ごすことになるだろう。できることならそれまでに、カナトはマツリカを自分のものにしてしまいたい。彼女の義弟がマツリカを囲いこむその前に。

「夏の終わり、シンガポールで……」

 十五年前の記憶を思い出してもらいたくて言葉を重ねるカナトの真摯な眼差しをもっと見ていたかったマツリカだったが、さきほどまで気を張っていたからか、そのままぷつりと糸が切れたように意識を飛ばしてしまったのだった。
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